2017年2月17日

 

 

 

ビッグデータとは何か?PartⅡ

 

量と頻度と多様性の膨大なデータと処理システム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コラム: ビッグデータへの道

 

 

第2回「ビッグデータの活用範囲」

 

 

 

ビッグデータがビジネスにもたらすインパクトを各業種ごとに考察します。

 

 

 

http://www.hitachi.co.jp/products/it/bigdata/column/column02.html

 

 

 

「ビッグデータの活用範囲」

 

 皆さんは、数年前にIT業界で話題となった米国の評論家ニコラス・G・カーの著書「Does It Matter?:Information Technology and the Corrosion of Competitive Advantage (邦題:「ITにお金を使うのは、もうおやめなさい」)」という本を覚えていますでしょうか。

 

 この本では、ソフトウェアやハードウェアなどのITテクノロジでは差別化はできないという主張がされました。確かに企業が利用するITテクノロジは代金を払えば買えるものですから、それだけでは差別化できるわけではないということです。

 

 しかし、データや情報はどうでしょうか。データや情報の多くは実際の活動によって生み出された結果であり、ノウハウです。つまりデータや情報は、経営資産である3M(人、物、金)と同等の価値を持つと考えられます。前述のニコラス・G・カーもデータの資産としての重要性を述べています。

 

 「ビッグデータ」の活用とは、当たり前かもしれませんが、高速なハードウェアや高度なソフトウェアを利用するということではなく、データや情報をもっと利用して、ビジネスに役立てよう、つまりデータや情報という資産活用をしましょうということなので、その活用範囲はビジネスの数だけあるのではないでしょうか。

 

 では、ビッグデータはどのような活用ができるのかを考えてみましょう。

 

 最初に、「ビッグデータ」を利用している企業としてすぐに思いつくのは、Webサービス事業者だと思います。

 

 例えば、Googleは検索と無料アプリケーションによって蓄積した膨大なデータを基に広告ビジネスを行っています。また、Facebookといったソーシャルメディアも膨大な会員データを基盤として広告やゲームなどのソフトウェア販売などで収益を上げています。

 

 さらに、Amazonや楽天などのECショップでは会員データ、購買履歴、クリックストリーム(サイト内での顧客の動き)などのデータを使って、過去の履歴や「おすすめ(リコメンデーション)」を提示することで、会員個々に購買意欲を高める情報提供を行っています。

 

 しかし読者の中には、『わが社はWeb事業者でもEC主体でビジネスをしていないから「ビッグデータ」はあまり関係ない』と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 

 ビッグデータの利用はWeb事業者やECだけではありません。例えば、通信事業者が携帯電話などの通信ログを分析することで、ある顧客の通話先やメール送信先がどこの通信事業者が多いのかを知ることで、他の通信事業者へ乗り換える危険度を事前に察知して、個別に値引きキャンペーンを実施したり、逆に友達紹介キャンペーンをするような施策はすでに実施されています。

 

 でも「Web事業や通信事業者は、デジタル化されたデータや情報が前提だから簡単だが、わが社は情報がデジタル化されていないから無理ではないか」と思われる方もいらっしゃると思います。

それなら、この例はいかがでしょうか。

 

 損害保険会社が、カーナビのGPSから契約者の運転状況を詳細に把握することで、年齢、走行距離、免許の種類といった情報だけでなく、契約者ごとに実際の走行や運転の状況を知り、契約者個々をリスク分析することで、マージンの確保と契約者の価格満足度を両立するといった例です。または、クレジットカード会社がカードの利用された場所と利用者のスマートフォンのGPSデータを照合することで、不正利用を検知することも考えられています。

 

 

(編集部注記: これは保険業界のフィンテックである「インステック」(インシュアランステクノロジーの略)といわれているものです。テレビCMで「走る分だけ」というのがありますが、あれがそうです。使った分だけしかお金がかからないという、少額取引を実現したのがフィンテックで、それをもっとお適用しやすかったのが、同じく金融業界である生保と損保業界です。インステックの記事も近々にご紹介していきます。)

 

 

 でも、「わが社は金融業のようなサービス業ではなく、実際の物である商品を売っているから」と「ビッグデータ」の利用に半信半疑の方もいらっしゃいます。しかし、どの企業でも販売という行為と顧客は存在していますので、製品に対する顧客のフィードバックや顧客ニーズが知りたいのではないでしょうか。すでに、小売業を中心に実施されている、ソーシャルメディアのコメント情報から、自社や自社の商品に関しての発言を捉えて、マーケティング施策に利用する、さらに商品企画や開発に活用するという利用方法は、どの業種でもあてはまる「ビッグデータ」の活用方法の1つだと思います。

 

 

 

 

 

 編集部からのコメントです。

 

 ここの部分がこれからのビッグデータ活用のかなめの部分です。端的に言えばIoT、つまりモノやデバイスにスマホなどを紐づけて、AI=ディープラーニングでデータを解析する。それを現在、音声で行おうとしているのがアマゾンのAlexaです。先日スタバもAlexaを導入するという記事を掲載しましたが、現在米国では3000種に及ぶ機器にAlexaは紐づけられています。

 

 また、世界最大の食品飲料会社ネスレの「バリスタi」がまさに「製品に対する顧客のフィードバックや顧客ニーズ」を知る試みであり、「ソーシャルメディアのコメント情報から、自社や自社の商品に関しての発言を捉え」る試みです。

 

 グーグルもそうですがアマゾンやこのバリスタiは、製品から集積された膨大な「ライフログ」を解析することで、自社の製品やマーケティングに生かすだけでなく、「エコシステム」構築に活用する試みです。

 

 

 

 

 

(記事の続き) 

 

 

 

 さらに「ビッグデータ」は、社会インフラや1次産業などでの利用も考えられています。 例えば、道路に設置してあるセンサー、車載されているETCやGPSのデータを利用して得られた交通量データと信号機の制御と連動することで渋滞緩和や移動時間の短縮、そしてCO2排出量の低減が実現可能となったり、各病院で保管されているカルテや投薬情報、さらに様々な検査データを統合化管理することで、医療コストの削減や医療ミスの防止を行うことや、遠隔診療の普及を図ることなども考えられます。

 

 

(編集部注記: この最後の部分は「ヘルステック」という割れる部分でウェアラブル端末やスマホなどで遠隔治療や画像診断などを行う試みです。当社ノートウェアも、この試みを念頭に置いております。)

 

 

 また、IT化が遅れていた1次産業の効率化にも有効と考えます。例えば、田畑に気象センサーを設置し、気象データと収穫量や品質などのデータとの関係を把握することで、農業プロセスを最適化することで生産性と収益性を向上させるといった活用が考えられます。

 

 ビッグデータをどのように活用し、どのような価値を生み出すかは、まさにアイデアやノウハウまたは事業戦略そのものであり、企業が今後考えていかなければならない課題だと思いますが、例に挙げた活用方法以外にも、図にあげたような活用はすでに考えられています。

 

 

 

 


図:各業種でのビッグデータの活用範囲

 

 

 

 

 これらの活用例には、既存のシステムで行われてきたものもありますが、これら従来のシステムとビッグデータを活用したシステムとの差は、使用するデータの種類にあると言えます。

 

 先に述べたクレジットカードの不正利用を調べる場合、これまではカードが使用された店舗やATMなどの場所と時間と契約者の住所やこれまでの使用履歴などから、ありえない場所で利用された場合は不正利用ではないかと疑っていましたが、例えば契約者のスマートフォンのGPSデータや防犯カメラの動画データなどを利用すれば、これまで以上に、正確かつ迅速に不正利用を検知できます。

 

 「ビッグデータ」は様々な活用範囲をもっていますので、どのように活用すれば良いかを考えることが重要です。安易にソーシャルメディアの情報を取り入れたマーケティングを行えば良いのだと考えると、「ビッグデータ」の価値を見誤る可能性があります。大切なのはデータを資産として再認識し、資産であるならば、死蔵している資産を掘り起し、見過ごしていた資産を見つけ出し、活用するべきであるという考えに立つことだと思います。

 

 しかし、「ビッグデータ」を活用すれば、すべてが上手くいくわけではありません。たとえデータを分析して、来週売れる物が分かったとしても、供給できないのでは宝の持ち腐れになってしまいます。また、利益以上にデータ分析のためのコストがかかっては本末転倒になってしまいます。その辺りのことを次回「ビッグデータを活用するためには」で考えてみたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 編集部からのコメントです。

 

 最後のほうに「売れるものがわかっても供給できないのでは宝の持ち腐れ」になるというのは、「エコシステム」を自社で持っているかどうかということです。つまり、金融系のビッグデータを扱う「フィンテック」企業であるならば、預金額を全く持たなくとも情報だけで武器になります。しかし、実際の製品を扱う場合、情報だけでは全く役に立ちません。

 

 かつてビッグデータを活用して、配送事業を行っていた米国企業がありましたが、コストや実勢にあわず、事業が成り立たなくなった事例があります。アマゾンの場合、書籍のネット通販で培ったノウハウから、多様で膨大な商品の集積をそれを求める大きな人口の顧客確保に成功し、ビッグデータをほかの商品の配送や小売りに活用することが可能になりました。こうした量と多様性の実現をクリティカル・マスといい、その商品の多様で膨大な品ぞろえを「エコシステム」といいます。

 

 ビッグデータ、フィンテック、シェア、IoT、ヘルステック、そしてAI=ディープ・ラーニングは、すべてが一つの考えに基づいた、共同消費という21世紀以降の100年間の新しい大きな試みの波を別の側面から切り取ったものであるともいえます。