金融革命「フィンテック」とは何か

 

 

 

 現在、金融ビジネスを揺るがしている「フィンテック」というIT革命が起こっています。「フィンテック」とは、「ファイナンス」を表す「フィン」と「テクノロジー」を表す「テック」が合わさった言葉です。

 

 「フィンテック」とは、「スマホのラインやメールで簡単に個人間送金ができる電子マネーシステムで、既存の金融機関の存続を脅かす可能性を秘めている、まったく手間のかからない金融サービス」のことです。

 

 

 

フィンテック企業―「破壊者」ディスラプターズ

 

 

 「フィンテック」の代表的サービスは「ペイパル」は簡単に個人間送金ができるサービスです。 「ミント」は口座やクレジット・カードの利用情報を一元化したサービスで、クレカ利用をどこでも可能にした「スクェア」などがあります。

 

 個人同士のお金の貸し借り仲介をする「レンディングクラブ」。そして店舗を持たないスマホ銀行の「シンプル」。個人送金では圧倒的な便利さを誇る中国の「ウィチャット」も画期的サービスです。

 

 こうした企業が、最も重視しているのが「ユーザー・インターフェース」(UI)「ユーザー・エクスペリアンス」(UX)です。顧客への簡便さと理解しやすさを表す原則で、「ポチる」だけでOKという表現がまさにそれです。

 

 UI、ユーザー・インターフェースはスマートフォン画面をシンプルでわかりやすいものにして、操作も理解しやすくするという考え方です。UX、ユーザー・エクスペリアンスは、製品やサービスから得られた経験や満足感を表すものです。便利で簡単、快適さを得られることが「フィンテック」サービスの生命線です。

 

 「フィンテック」に関する書籍として、柏木亮二氏の「フィンテック」(日経文庫)に沿って、概要を網羅してお話したいと思います。

 

 

 

アメリカでのフィンテックブーム

 

 

 「フィンテック」はアメリカで始まりました。ペイパルやスクェアなど、今や1300社以上の企業が存在するようです。その「フィンテック」は、2010年代というつい最近になって始まり、アメリカでブームになりました。

 

 ブームの基盤となるのは、ミレニアル世代(1980~90年代生まれ)です。柏木氏はアメリカの調査会社スクラッチが2014年に発表した「ミレニアル・ディスラプション・インデックス」というアンケートを引用して、アメリカのミレニアル世代1万人の次のような傾向を明らかにしています。

 

・銀行の話を聞くよりも、歯医者に行くほうがマシ(71%)

・将来的に銀行が必要になる日が自分に来るとは思わない」(33%)

・もしグーグル、アマゾン、アップル、ペイパル、スクェアが金融サービスを提供してくれるなら、今までの銀行のサービスよりもグッとくる」(73%)

 

 一言でいうと、既存の大銀行は信用ならず、いらないということです。さらにアメリカの4大銀行のすべてが「ミレニアル世代が好むブランドランキング」のワースト10にランクインしてます。この銀行の信用の低下が、スマートフォンやSNSとタッグを組んだ形が「フィンテック革命」と呼んでいいと思います。

 

 スマートフォンは、アプリケーションの発展を促進する非常に優れた「プラットフォーム」となり、「ソーシャル・ネットワーク・サービス」(SNS)は、顧客のし好、生活スタイルなどの情報「ライフログ」の活用を可能にしました。

 

 ここに「ビッグデータ」が加わります。「ビッグデータ」とは「データ量が巨大である(Volume)」「高頻度である(Velocity)」「多様性がある(Variety)」という3つのVで表されます。

 

 オンライン・ショッピングの購買履歴やページ繊維ログ、SNSに投稿された文章や画像、動画データ、電子メール、GPS、センサーが感知した記録など多岐にわたっています。これらを新しい方法で組み合わせて分析して、個人や企業のニーズを予測したり、リスクを判定したりすることに使われます。

 

 このビッグデータと一緒に使われる言葉が「クラウド・コンピューティング」です。クラウドとは簡単に言うと、ヤフーメールやGメールです。自分の家のPCサーバーにファイルをためるのではなく、アマゾンやグーグルのサービスのサーバーをかりて情報を保存するものです。

 

 こうすると需要に応じてITシステムを増やしたり減らしたりでき、世界最高レベルのセキュリティと利用料に応じて料金支払い、初期投資や固定費といったコストの大幅という利点があります。

 

 こうして、「フィンテック」は、リーマン・ショック以降、アメリカで大きなブームとなり、多くのイノヴェーションや破壊的な活躍をする企業の多くを「育てて」います。

 

 

「フィンテック1」―金融の効率化

 

 

 

KYC―ノウ・ユア・カスタマー、本人確認から「フィンテック」は始まった

 

 

 「フィンテック」は銀行の本人確認から始まりました。「KYC(Know Your Customer)」(ノウ・ユア・カスタマー、顧客のことを知れ)といいます。金融犯罪の懸念から発生していますが、郵送を挟んだ煩雑さのために、金融機関の申し込みが完了する比率、「コンヴァージョン率」が大きく低下することを招く要因になっています。

 

 

 

トークナイゼーション―トークン=政府以外の事業者の「お金」

 

 

 「トークナイゼーション」とは、iPhoneに登録したクレジットカード番号のうちの一部を乱数を使って、全く異なる番号に置き換えるという方法です。この乱数に置き換えられた番号が「トークン」と言われます。

 

 この乱数化した番号をカード番号と紐づけて、「トークン・サービス・プロバイダー」というセキュリティで守られたセンターに保管します。このため、お店も企業も顧客の本当のクレジットカード番号を持っていないので、顧客情報データベースが流出してもカード情報が守られるという利点があります。

 

 さらに「生体認証」や「セルフィー認証」によって、パスワードが不必要になりつつあります。

 

FIDOアライアンスという、新しいオンラインの認証技術の標準化を目指す非営利の標準化団体(前掲書P96)」という組織が「UAF(Universal Authentication Framework)」と「U2F(Universal Second Framework)」という二つの規格を提示しています。

 

 まず「UAF」のほうは既存のパスワードを生体認証に置き換えるための規格で、「U2F」は「パスワード補完型」と言われ、パスワード以外にもう一つの認証デバイスを追加することで認証をする規格です。

 

 

 

消える現金と電子マネーの普及―モバイルペイメント

 

 

 日本ではICカードという電子マネーが普及していますが、フィンテック技術としての電子マネーは「モバイルペイメント」という支払い手段です。

 

 「ペイパル」はスマートフォン・アプリを利用して決済をする点で、最もフィンテックとしての特徴を持っています。店舗にカードリーダーなどの端末を置かずに済み、ペイパル・アカウントをもっていれば、個人間の送金が可能です。

 

 スクェアは「ドングル」という小型カードリーダを使うため、カードリーダーにかかる初期費用もいりません。事前審査も必要事項を記入して申し込むという非常に簡単なものです。

 

 

 

個人間の送金が可能―個人同士の間に介在がない

 

 

 「ヴェンモ」というSNSを使った画期的な送金サービスがあります。ヴェンモに銀行口座やクレジットカードを登録し、フェイスブックなどで作った送金先リストのアカウントに金額を書いたメッセージを送るだけで送金が完了します。

 

 ヴェンモはこうした簡便さと安さのため、アメリカの若者の間で普及しています。パーティやイベントの参加費のお金のやり取りに利用されているようです。「Just Venmo me」(ヴェンモで送っといて)という言葉が当たり前に使われているそうです。

 

 スクェアも「スクェア・キャッシュ」という送金サービスを行っています。これは、電子メールを使って、デビットカードから個人間送金ができる驚くべきサービスです。手続きは、スクェアに自分のデビットカード番号を知らせるだけです。

 

 送金方法は、送金相手にメールを送る際、CC欄に「cash@square.com」と入力して、件名に金額を入力するだけです。相手には自分が送ったメールのほかに「cash@square.com」からのメールが届き、このアドレスに自分のデビットカード番号を入力しただけで、自分のデビットカードに送金されるということです。

 

 こうしてモバイル・ペイメントによって、ユーザー側の面倒な手続きや初期費用が全く掛からないというユーザー・エクスペリアンスに特化したサービスがすでに始まっており、紙幣や銀行の存在意義がなくなりつつあります。

 

 

 

アグリゲーション「集約」とPFM(個人資産管理)

 

 

 「アグリゲーション」という口座情報の「集約」が始まっています。多種類の口座や金融機関情報を一つに集約するサービスです。月々の支出を把握して無駄遣いを減らし、不要な金融サービスを解約するなど、貯蓄や計画的な資産運用がより鮮明になるということです。

 

 さらに進んで「PFM」(パーソナル・フィナンシャル・マネージメント、個人資産管理サービス)には、家計簿機能、支出分析機能、資産運用アドバイス機能、税金計算機能などがついています。

 

 「ミント」はPFMによる「貯蓄支援サービス」です。ミントの哲学は「もっと節約して貯金をしましょう。そのお手伝いをミントがやります」(前掲書P110)というものです。ミントは月々の支出の中で、ほかの月よりも支出が多かった項目を目立つように表示してくれます。病気やけが、失業に備える最低限の貯蓄額をためるアドバイスが表示され、ほかの利用者の平均的指標との比較もしてくれます。

 

 

 

「フィンテック2」―金融ビジネスのディスラプター、破壊者たち

 

 

 

 フィンテックは、金融ビジネス自体を破壊するという「アンバンドリング」を始めています。

 

 

 

 

P2Pレンディング―銀行業務の本質「与信」

 

 

 銀行業務の本質は「与信」(credit クレジット、信用を人に与えること)です。「あの人にいくらまでお金を貸せるか」という銀行だけのがもつ「人の返済能力審査」を、より高い精度で提示できるのが「P2Pレンディング」です。

 

 金融機関は、資金を小口化して融資するという機能を持っていますが、お金を借りたい人と借りたい人を引き合わせる、「マッチング」は、非常に困難で、「担保」と「貸倒引当金」などのコストがかかります。金利や期間、リスクなど当人同士の要望は千差万別です。

 

 しかし、インターネットによって、マッチングに必要な情報を効率的に集約できるようになりました。「与信能力」を第三者(これはこれからはAIの役割となります)が判定し、リスクに応じた金利を設定できるようになりました。

 

 「マッチング」業務にフォーカスしたP2Pレンディングは、預金者からお金を預かっていないので、上記のコストとも無縁です。そのため、お金を貸す人は銀行よりも高い金利を、借りる人は安い金利を期待できる仕組みが構築されています。

 

 P2PレンディングではFICO(ファイコ)という「消費者信用格付け」を行う会社のスコアを参照して、申込者の信用リスク(貸し出しのためのリスク)をAからGの7段階に格付けしなおし、そのランクに応じて金利を申込者に提示します。FICOスコアが高ければ、低い金利が提示され、スコアが自社の基準を満たさない場合は、その時点で審査を落とされてしまいます。AからGのランクのし直しは、貸し出す側の目安になります。

 

 つまりレンディングクラブはP2Pレンディングという方法で、貸し手には銀行よりも高く、借り手には銀行よりも低い金利を提示しながらも、自社の利益を十分に確保できるシステムを構築したことになります。

 

 このように高い利益を確保できるのは、「優良な借り手が集まる」仕組みだからです。

 

 レンディングクラブは、FICOスコアをもとに申込者のランクを貸し手用に格付けしなおし、リスクの高い借り手を排除します。「借金偏差値」の高い借り手だけが集まる仕組みなのです。

 

 

 

ロボアドバイザー―貸し手側のP2Pレンディング

 

 

 投資・資産運用でも「ロボアドバイザー」というフィンテックサービスがあります。

 

 ロボアドバイザーは、申込者が登録した口座にある金融商品を集約して、一つのポートフォリオにします。ポートフォリオとは、さまざまな金融資産を一つにまとめた一覧です。そこに入っている金融資産のリスクやパフォーマンスを分析して「リスク許容度」を判定し、それに応じた資産配分を提示します。

 

 ロボアドバイザーは数百ドルからの資産規模からの運用が可能です。通常は数千万円以上の資産を持っていなければ受けられない運用指南のハードルががロボアドバイザーによって、一気に下げられたわけです。

 

 ロボアドバイザーのアドバイス報酬は、預かり資産の0.25~0.75%程度です。人による指南は1~2%です。この点もロボアドバイザーの魅力です。

 

 

 

クラウド・コンピューティング―価格破壊

 

 

 こうした企業はクラウド・コンピューティングを活用しています。「アマゾン・ウェブ・サービス」(AWSで今は名が通っています)で、スタートアップ企業はさまざまな業界の高いハードルを乗り越え、価格破壊を起こしました。

 

 マーケットデータ提供サービスの「エグジナイト」は、クレジットカードを登録するだけで初期投資などのコストがかからず、利用した分だけ料金を払えばよいという価格体系を実現しています。

 

 

 

スマートフォン・バンキング―店舗の消滅

 

 

 クラウド・コンピューティング企業の「シンプル」は、スマートフォン・バンキング・サービスです。アプリで預金の管理運用を行います。

 

 ユーザーの収入の突出を分析して、その都度状況に応じたアドバイスをしてくれます。家賃や光熱費などを集計して、その月にいくら「お小遣い」を使えるかを教えてくれます。

 

 「ムーブン」はシンプル同様、基本的に無料で、「家計簿」サービスを行ってくれます。デビットカードの支出を自動的に費目ごとに分類集計し、これも「お小遣い」を教えてくれます。

 

 そしてこの二つの「銀行」は預金事務機能など「銀行業」に当たる機能は持っていません。それらは地域地域の地方銀行に任せ、自分たちは最も顧客に近い部分にUX(ユーザー・エクスペリアンス、顧客の使いやすさ感覚)にのみサービスを集中させています。

 

 

 

トランザクション・レンディング―企業の資金繰り

 

 

 ソーシャル・レンディングは企業の資金繰りでも始まっています。楽天やアマゾンのようなオンラインショッピングのプラットフォームを提供している企業が、出店している企業などに融資を行うサービスがそれです。これをトランザクション・レンディングといいます。

 

 アマゾンや楽天は、出店しているお店の日々の売り上げデータを持っており、利用者の評価から、成長、売れ筋商品など、細かな傾向やデータをすべて把握しています。そのため、銀行の与信審査に必要な書類の必要がありません。すべて売り上げや評判などのデータで与信能力が判定されます。

 

 

 

請求書の現金化―ファクタリング

 

 

 「ファクタリング」というクラウド会計を利用した、請求書を即時に現金化してくれるサービスがあります。

 

 「ファンドボックス」というアメリカの企業の場合、自社の会計データソフトを接続してデータを読み込ませ、その中で現金化したい請求書をクリックします。すると、ファンドボックス側が読み込んだデータから取引先や過去の受注状況などを自動的に割り出し、貸付の可否と手数料を提示します。

 

 「リスクフィー」という手数料は、独自のアルゴリズムで算出され、架空の請求書や不正を検知することもできます。

 

 

 

ATMが消えた決済

 

 

 フィンテック技術は、ATMや店舗にかかるコスト、金融業に課される規制や法律に沿った業務といった参入障壁を乗り越えることを可能にしました。

 

 新興国に爆発的に広がる「エムペサ」という携帯電話を使ったモバイル決済ネットワークがあります。携帯電話のショート・メッセージを使うだけで、送金と決済ができます。

 

 エムペサの代理店「エージェント」に行って、自分の携帯電話を登録して口座を開設してもらい、現金を渡してエムペサ口座にその金額分の電子マネーをデポジットします。この電子マネーを携帯メール経由で相手の携帯電話に簡単に送ることができます。

 

 エムペサはATMなどのインフラが全くいらない、非常にわかりやすいシステムです。アフリカや中東で爆発的に広がり、ケニアでは国内送金の約9割がエムペサ利用です。

 

 この送金サービスは、ATMのネットワークはおろか、銀行も、口座すらも持たずにお金のやり取りが可能である点で、フィンテックの特徴を生かしたサービスといえるでしょう。

 

 

 

FinTech 3.0―機能と情報の部品化

 

 

 「アンバンドリング」された個々の金融ビジネスのサービスは「一つの機能」として、異なるビジネスやサービスの中で活用されていき、それはAPI(Application Programming Interface)によって行われます。

 

 

 

API―開発するな、持ってきてつなげろ

 

 

 APIとは、あるユーザーが使うソフトウェアやアプリケーションから、別のソフトウェアの機能やデータを呼び出す手続きを定めたものです。

 

 毎回すべての機能をゼロから開発するのは困難で無駄が多いので、APIに従って機能を呼び出す短いプログラムを記述するだけで、その機能を利用したソフトウェアを作成することができます。

 

 一から開発せず、より優れた「機能」をもらって、別の「機能」と連動させて、新しいサービスを作る仕組みです。最近では「ウェブAPI」と呼ばれています。例としてはグーグルマップをホームページに載せることがそれにあたります。

 

 現在「プログラマブル・ウェブ」に多種多様な利用可能APIが数多く登録、公開されています。また、イギリスやEU諸国はAPIの一般公開を義務付ける制度を確立しつつあります。

 

 

 

AI、人工知能と「ディープラーニング」―第三次AI革命

 

 

 バラバラになった「機能」をAPIが結びつけ、そこから発生する膨大な「ビッグデータ」「ライフログ」を瞬時に解析するのが「人工知能」(AI)です。

 

 AIを一気に進展させたのが「ディープ・ラーニング」という技術革新です。この技術革新の根本は「人間が手伝わない」ということです。

 

 これまでの人工知能と違って人間が教えてやらなくてよいという技術です。2012年、人工知能の画像認識大会でトロント大学が作った「スーパービジョン」は、画像認識のエラー率を15%にするという成果を成し遂げ、人工知能の可能性を一気に広げました。それまでのエラー率は26%だったそうです。

 

 AIはデータ間の相関関係を「特徴量」というものとして抽出します。「特徴量」とは人間の顔などの「物の特徴を数量化したもの」のです。これを人工知能自らがデータから抽出し、その「特徴量」に基づいて分析を繰り返し行うことができるようになりました。

 

 画像認識ディープ・ラーニングである「ディープ・フェイス」は97.25%の人の顔の識別精度を実現したそうです。人間の持つ識別制度は97.53%だといいますから、ほぼ人間と変わりません。

 

 「ディープ・ラーニング」は自らデータの「特徴量」を抽出することができるため、他の分野にも適応できる「汎用性」も実現しています。

 

 

 

ブロック・チェーン―ビットコイン誕生の仕組み

 

 

 現在のフィンテックはビットコインから始まりました。ビットコインは、2008年に「ナカモト・サトシ」という実在不明の謎の日本人名で連続投稿された論文に基づいて作られた仮想通貨で、政府や中央銀行を介さないP2Pネットワークで「流通」する通貨です。

 

 ビットコインを支える技術「ブロック・チェーン」は、「取引の記録」をまとめた「ブロック」を「チェーン」のように追加していく仕組みです。取引のすべてを記録した、公開取引簿の作成と維持を、低コストかつ金融機関や取引所を介さずにネットワーク上で実現するための仕組みです。

 

 「ブロック・チェーン」は各「ブロック」「ヘッダ」「トランザクション」に分かれています。「ヘッダ」はあるブロックと一つ前のブロックに関する情報が入っています。「トランザクション」(取引)はある時間内に行われたすべてに取引リストが記録されています。この記録は10分ごとに、ビットコインが口座に支払われたことなどがされていきます。新しい取引を記録するためには新しいブロックを作る必要があるため「ノンス」という情報が「ヘッダ」には記録されています。

 

 「ノンス」を見つけるためには膨大な計算が必要とされるため、「ノンス」を探し出す行為が「マイニング」(採掘)といいます。「ノンス」を見つけて新たな「ブロック」を作った人には新しく発行されたビットコインが付与される仕組みになっています。

 

 「ブロック・チェーン」には過去からのすべての取引が記録されていて、各ブロックがヘッダ情報によってつながっています。このため取引記録を不正に書き換えても、以前のブロック情報との矛盾が生じてしまうため、過去すべてのブロック情報を書き換えなければなりません。

 

 こうして謎の論文投稿から始まったブロック・チェーンとビットコインによって、フィンテックが始まり、さまざまな新しいサービスの可能性を経て、次の段階へ入っていくことが考えられています。

 

 

 

FinTech 4.0―機能の再統合「リバンドリング」へ

 

 

 「フィンテック」は金融サービスをバラバラにしましたが、「再統合」する動きを見せています。それを「リバンドリング」といいます。

 

 

 

IoTとマイクロフィンテック

 

 

 次にフィンテックはIoTと結びついて行きます。IoTとは「インターネット・オブ・シングス」(普通のモノをつなぐインターネット)といいます。これまではPCをつなげるだけでしたが、ネットを電子デバイスや家電、さらにはモノにまで広げていこうという取り組みです。

 

 スマート家電や家中にセンサーを取り付けた「スマート住宅」が増えていきます。IoTを備えた住宅によって、エレベーターのような遠隔システムのように、住宅もより細かな人間の不注意にまで気を配れるセキュリティ・システムが登場していきます。住宅の中の安全だけではなく、再生エネルギーの効率を通知してくれたり、空調のレベルや故障など、省エネへの活用が考えられています。

 

 こうしたスマート住宅では、火災発生率が今よりぐんと下がり、火災保険のありようが変わってきます。自動的に盗難保険や火災保険に入ってくれたり、車が走っていれば事故補償、止まっていれば車両保険にリアルタイムで切り替えるという保険が実現します。このような少額のフィンテックを「マイクロ・フィンテック」といいます。

 

 

 

ライフログ・エコノミー

 

 

 こうして、IoTによってより細かく多様性に富んだ膨大なライフログが構築されていきます。そして、そうしたデータの「ディープ・ラーニング」による詳細で素早いライフログ解析によって、「信用」がより具体的な行動に基づいたのもとして、算出可能になっていく可能性があります。

 

 ライフログはあらゆる行動を記録したデータの集積です。こうした生活の質を評価して、「信用」として数字化してくれるサービスが始まることが考えられます。

 

 SNSでつながっている知人や友人を「与信」の判断材料にしたり、貸出金利算出のためにアルゴリズムを利用するなどして、人の行動が金銭的価値に換算されていきます。

 

 こうしたことは、金融の世界ですが、フィンテックはいわば「モデル」であり、これがその他のビジネスやサービスにその業界にあるべき形で導入され、適応していくものだと考えられています。