2017年1月25日

 

 

2020年代の「ヘルステック」

 

 

 

 

 おはようございます。本日は、日経テクノロジーonlineのウェブサイトの記事をご紹介します。2020年代、医療現場に人工知能が普及した場合のヴィジョンが非常に具体的にわかりやすく、網羅的に描写されている記事です。

 

 「ヘルステック」とIoT、人工知能に関しては、まだまだ日本では一般的な認識が低いものです。医療現場の人工知能というと、なんだか冷たい感じと、機械の不具合で医療ミスが頻発するのではないか、やはり人間的な細やかさと温かみのある診察やチェックが必要なのではないかというイメージをお持ちの方も多いでしょう。

 

 人工知能もヘルステックも、それを完全に実現した国も企業も医療施設もまだ世界のどこにも存在しません。それらは、19世紀末に鉄道が、20世紀に自動車や電機が普及し始めたころと同じ状況なのです。

 

 当社ホームページの「ITの最新情報」は、こうした新たなパラダイムシフトに関する情報をお届けしいち早く皆様に新しい便利で快適な時代の到来を広めて、認識を高めていくことが狙いです。

 

 

 

 

 

 

202X年、医療現場に人工知能がやって来た

 

 

 

日経テクノロジーonline”明日をつむぐテクノロジー” 

2017年1月11配信記事から

http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/011000049/011000002/?ST=tomhel&P=1

 

 

 

 コンピューター技術の急速な進歩により、医師の業務を人工知能(artificial intelligence:AI)に支援させようという研究が世界中で進んでいる。自ら学習し、成長し続ける能力を持ったAIは、多忙を極める医師を助ける存在として歓迎されるだろう。しかし、やがて医師がAIに取って代わられる日が来ないといえるのだろうか

 

(ノートウェア編集部注記:以下からはAIが導入された医療現場の未来像のフィクションによるビジョンです)

 

 

 

AIが医療現場にやって来る

 

 

 202X年某日。ある地方都市の病院に勤務する総合診療医A氏(49歳)は、今日も人工知能(AI)が備えられた診察室に向かう。

 

(中略)

 

 でも驚きました。社会の変化で医療ニーズも変わってきているので、総合診療科を担当してくれと言われたのです。大腸癌手術一筋でやってきた私には難しいと伝えたのですが、先輩は「大丈夫だ」と。来るまでは不安だったんですがね。確かにこのAIがあれば鬼に金棒。今は自信を持って診療に当たっています。

 

 一昔前の病院の受付は診察券を受付機に差し込むと番号札が出てきて、あとは呼ばれるのをずっと待つ仕組みでした。今は自宅で予約して、病院に着いたら受付ロボットにスマートフォンをかざすだけで手続き完了です。待ち時間がほとんどないので、患者さんに好評です。

 

 ロボットが持つタブレットで予診も同時に行っています。身長・体重、既往歴や毎年の健診結果、さらに日常の活動量などもスマホから情報が転送されますから、入力は必要なし。タブレット画面に症状のリストが表示されるので、患者さんは自分が感じている症状を選んでいくだけですよ。

 

 しかもこのロボットは優れものでしてね。頭部には各種センサーが埋め込まれていて、患者さんの体温や顔色、声のトーンなんかもチェックしてるんです。この患者さんが去年健康診断を受けた時にスキャンした健康な時の顔色とか声の様子の記録がありますから、比較するんですよ。

 

 あ、来た来た。診察室にいる私の手元には、患者さんの過去の情報と今しがた入力された情報、さらにそれらに基づいてAIが推論した鑑別疾患リストが表示されます。

 

 

(編集部注記: これは患者さんの病歴や受診歴、通院歴などの「ビッグデータ」。これらをセキュリティが最高度であるクラウド上にあげ、それらをAIが自ら「ディープ・ラーニング」で解析していく。こうしたビッグデータ、またはライフログは、金融革命「フィンテック」における「与信審査情報」に当たり、ここから銀行業務が「アンバンドリング」(分解)されて)、金融業に伴う煩雑さと取引の面倒を取り払い、金融業の巨大な再編が進みつつある。ATM、窓口、審査、検査など銀行業のほとんどがいらなくなったといっても過言ではなく、AI導入でそれが完全に実現する一番最初の業界だといわれています。)

 

 

 「こんにちは。今日はどうされました?」。患者さんが診察室に入ってきた時の声掛けは何年たっても変わりませんが、実はもうあらかた疾患候補は絞れてるんです。

 

 ここからは問診。リストに出ている鑑別疾患を想定して、その疾患ならあるはずの症状が確認できるかどうかを聞いていきます。これは若い医師にも好評です。経験が少ないと、つい患者が訴える症状にだけ目が行きがちで、知らないと気が付かない大事な徴候を見逃しやすいですからね。患者さんも症状を正しく訴えられないことがありますから、この機能はとても助かります。過去の記録と今日の記録、そしてその差分から推論された鑑別疾患リストに基づいてこちらから積極的に問診していけるので、診断にたどり着くまでに回り道をしてしまうケースは圧倒的に減りました

 

 一昔前は電子カルテの入力に四苦八苦で、キーボードにばかり向いていたので、患者さんからよく文句を言われました。でも今は会話が自動で入力されるので、「話をよく聞いてもらえる」と患者さんから好評ですし、私も問診に専念できます

 

(中略)

 

 昨日、肺炎で搬送されてきた205号室の患者さんの様子はどうかな。昔は病室と居室を行ったり来たりしてたけれど、今は遠隔モニタリングができるから、自席に座ったままでチェックできるんです。患者さんの身体に付けたセンサーが各種バイタルをモニタリングしていますし、赤外線モニターで動きも把握できますから。

 

(中略)

 

 この地域の病医院や高齢者施設は皆、同じカルテ情報を見ることができましてね。治療内容や経過を共有できるんです。おかげで搬送元の老人保健施設も安心してまた患者さんを受け入れられると聞いています。

 

 そういえばこの間、医局の先輩に会ったら、今度、関連病院の部長になると言っていました。新しい勤務先では最近登場したVRスコープ(Virtual Reality)を導入するって意気込んでいました。VRスコープは切除のナビゲーションをしてくれるから、手術ミスが少なくなるとか。術前検査で得られたCTやMRI画像から、AIが臓器を三次元再構築した上で切除マージンや見えない血管の位置なんかをスコープに示してくれるから、外科医の負担が大幅に減るそうです。

 

(中略)

 

 術中の患者の循環・呼吸管理もAIが行っていて、異常が起こる前のわずかな状態変化を検出し、その後を予測していち早くアラートを出してくれるから麻酔科医の負担もずいぶん軽減し、1日の手術件数が増えているそうです。おかげで病院経営も安定していると聞きました。

 

 医療現場にAIが登場してからというもの、我々は本来医師がすべきことに専念できる環境になりました。レセプトや紹介状、公費医療の申請書類などもAIが作ってくれます。

 

(中略)

 

(編集部注記: ここまでがこの記事の中の医療現場での未来ビジョンです)

 

 

 医療分野におけるAIの活用は、もはや夢物語ではない。AIを活用した技術の開発が進む一方で、医療機関が持つ医療情報をAIで解析し、診断や治療選択、創薬などに生かそうとする試みが広がり始めた。

 AIとは、学習素材を与え、自ら学ばせることで独自の判断基準を持ち、問いに対して答えを示すプログラムの総称だ。人が学習し、物事を判断する仕組みと同じことをコンピューターに取り組ませる。このAIの技術を応用し、画像から病変を見つけたり、患者の症状やゲノム情報から鑑別診断をする仕組みの開発が進んでいる。

 こうした動きを後押しするように、2016年11月に政府が開いた第2回未来投資会議では、安倍晋三首相が「ビッグデータや人工知能を最大限活用し、予防・健康管理や遠隔診療を進め、質の高い医療を実現していく」と宣言。それに応える形で塩崎恭久厚生労働相は、診療報酬改定によりAIを用いた診療支援にインセンティブを付ける方針を表明。「2018年度の診療報酬・介護報酬改定に向けて、診療支援技術の確立と報酬の付け方について議論を重ね、2020年度までに実装化へと進める」と明言した。

 

 

 

患者情報のデータベース化進む

 

 

 AIを活用するには解析のためのデータベースを構築する必要がある。そこで政府は、電子カルテや健診データ、医療・介護のレセプトデータなどを一元化したデータベースを構築し、より良い医療の提供に資する「次世代型ヘルスケアマネジメントシステム」の構築を進める(図1)。

 

 

 

図1 政府が検討を進めている患者情報データベースの概念図

 

 

 患者一人ひとりにIDが割り振られ、どの医療機関を受診してもデータが一元的に管理、閲覧、利用できるようになる。蓄積した膨大な情報は診療のほか、医薬品開発や政策などに応用される。(保健医療分野におけるICT活用推進懇談会提言書を一部改変)

 

 「PeOPLe」と名付けられたこのデータベースは、各医療機関が保管する診療情報を、患者ごとに割り振られた識別番号(医療等ID)にひも付けて管理することを想定している。これにより、複数の医療機関を受診していても患者の情報を一元的に引き出せるようになり、他院で実施した検査の結果を確認したり、過去の診療録を振り返ることも可能になる。

(編集部注記: この「患者情報が一元的に引き出せる」というのが、金融機関の「フィンテック」における「与信審査」のための情報に当たります。医療に関することなので、セキュリティと国による厳格な基準が必要になる部分です。)


 医師がPeOPLeに診療データを登録すると、その見返りとして検査や診断、治療をサポートする情報をAIが提供する診療支援システムの構築も検討されている。また、データベース化された医療情報は匿名化し、保健医療の質の向上や医薬品の安全対策、創薬、無駄な検査や処方の省略化、医療資源の最適配分などに活用する方針だ。その実現に向けて急ピッチで準備作業が進んでいる。

 

(編集部注記: この部分は少し弱い印象です。「医療情報の匿名化」では役不足です。「情報の暗号化」(トークナイゼーション)が必要。トークナイゼーションはIT化の進む金融システムのパスワード管理に用いられ始めています。たくさんのパスワードを持つことがなく、暗号なので、使用する個人も企業も施設のいずれも、そのパスワード自体を知らないまま取引が進む。医療情報は完全に個人の人間情報なので、徹底した「情報の暗号化」が望まれます。)

 厚労省医薬・生活衛生局長の武田俊彦氏は、次世代型ヘルスケアマネジメントシステムについて、「この構想はこれからの医療・介護データのネットワーク化、ビッグデータ活用の羅針盤になる。医療現場が登録したデータを解析することで、医療の発展、地域包括ケアシステムの構築、医療者の負担軽減につなげ、患者に還元する仕組みにしていく」と説明する。

 

 

 

自ら判断のルールを作り出すAI

 

 

 この次世代の医療提供体制を構築する上で肝になるのがAIだ。ここでAIとはどのような仕組みかを改めて振り返ってみよう。

 

 そもそもコンピューターは、画像や文字列などの情報を与えられると、それを分解し、単純な信号の集まりとして認識する。AIはその信号の並びから、画像や文字を特徴付けるポイントを見いだし、その特徴が画像や文字を認識する上でどれだけ重要かを判断する。そしてその重要性に基づき、画像や文字を認識するルールを作る。

 

 

(編集部注記: 「画像や文字を特徴付けるポイント」というのは、AI第3次革命「ディープ・ラーニング」の根本である「特徴量」というものです。人間の顔の特徴や物の特徴を数量化していくもので、手書きの数字の解析や画像認証を可能にした方法です。ただし「特徴量」というのはまだ完全な言葉とはなっていないようで、「特徴学習」 feature learning とか「階層的特徴抽出」 hierarchal feature extraction というようです。)

 

 

(中略)

 

 以前は、与えられた情報から特徴を見いださせる際、どの特徴に注目すべきかを人間がAIに指示する必要があった。しかし、コンピューターの計算能力が飛躍的に高まり、複雑なプログラムが動く環境が整った。その結果、AならばBという単純な関係から、AでBならばCといった多層化した判断基準をAI自らが作り出す「深層学習(ディープラーニング)」という技術が生まれ、人間が指示しなくてもAI自ら特徴を見いだし、その特徴がどれだけ重要かを何度も計算を繰り返して調整できるようになった。それにより、AIが与えられたデータを自動で認識し判断する能力が急速に高まったのだ(図2)。

 

 

 

図2 AIが自ら学び、ルールを作り上げていくメカニズム

 

 

 問題と答えを学習素材として与えると、AIは独自に問題の特徴を抽出し、特徴ごとに重み付けを考えて、答えを導き出すためのルール(判断モデル)を作る。最初はAIは間違いを繰り返すが、そのたびにルールを微調整して、正しい答えを出せるように判断の指標をブラッシュアップしていく

 

 AIの開発に長年携わってきた慶應義塾大学理工学部生命情報学科教授の榊原康文氏によると、AIが学習し、判断基準を持つ仕組みは人の学習と同じだという。

 

 

(編集部注記: AIの学習が人間の学習と同じだというのは、「ディープ・ラーニング」がニューロサイエンスの模倣だからです。ニューロンという脳の神経の情報伝達ネットワークの仕組みを完全に模倣した仕組みからAIの技術が2010年代という最近になって、加速度的に進化しました。)

 

 

「医師は患者の問診結果から重要なフレーズを抽出し、それがどの程度大切かを判断した結果として鑑別疾患を挙げている。どの医師もこの思考プロセスを繰り返し経験し、診断の精度を上げてきたはず。それと同じようにAIは、複雑な計算を重ね、係数の調整のような微調整を繰り返し行っている」と説明する。

 

 このAIの技術をさらに進歩させ、実際の診療現場で活用するために、様々な企業や研究所が開発を始めている。

 

 

 

 

 

 

 編集部からのコメントです。

 

 非常に面白く、夢があり、2020年代以降、医療がより身近で親しみのわく現場となることを描写している記事です。こうしたヴィジョンをまず、医療関係者からIT関係者、コンサルや営業などビジネスマンの間で、漠然とでもいいから共有していくことが、近い将来の生活の快適さへとつながっていきます。

 

 上記の記事で複数の医療機関を受診していても患者の情報を一元的に引き出せるようになり、他院で実施した検査の結果を確認したり、過去の診療録を振り返ることも可能という部分が重要です。患者情報が自由に移動できるようになり、どの医療機関でどんな診察を受けられるか、その最適なマッチングが容易になります。

 

 しかし、それより重要なのは、「フィンテック」における「アンバンドリング」の始まりです。金融機関から「与信審査情報」(金融業自体を成り立たす要です)が外しとられて、金融機関の不必要という動きが始まっています。(ATMが不必要で、窓口もなくなります。)

(こうした動きは今後、サービスの大きなIT化、IoTとAIの普及の基本的考えである「フィンテックとは何か」という文章を、よろしければご覧になってください。)

http://www.noteware.com/fintech.html

 

 医療機関でもこれが起こります。つまり、医療や診察とは本来それほど関係のない、医療事務、つまり予約であるとか進行管理、患者と機材や診療所、お医者さんの適切なマッチングという煩雑極まりない(事故にもつながりかねない)無駄な業務がなくなります。

 

 そして、その結果「健診業務」(medical checkupとかmedical examinationといいますが、外国にはそういったものは存在しないそうです)がなくなるのです。それはIT企業を中心としたさまざまなコンサル、企業、営業、広報、調査といった会社のネットワークによって調整されるフィールドになることが予想されます。

 

 さらに、様々な診察や検査が個人で家庭で、あるいはスタバで簡単にIoTとAIに紐づいた検査キットで行われるので、お医者様や看護師さんはより患者さんにより適切で、本質的な診察や治療に集中することができます。研究職にも集中できますね。

 

 いただけないのは、こうした動きに、政府の行政、つまり厚労省が力を握ってしまい、硬直的なシステムになりかねないことです。政府には法制度の整備のみを行ってもらい、基本的には医療機関や民間事業者の間での、中央機関が介在しないことによって、こうしたリベラルでドラスティックな改革は行われます。行政の不必要な指導や監督、通達は無意味です。あくまで事業者同士、ビジネス同士の自由で素早く賢明なつながり、ヒューマン・ネットワークの構築がその本当の意義なのです。

 

 「ヘルステック」は「中央」や「仲介」の管理を嫌います。