2017年1月23日

 

 

「ヘルステック」に関する現状の基礎知識

 

 

 

 今週は「フィンテック」の医療業界版「ヘルステック」についての記事をご紹介しています。フィンテックですらそうですが、一般的にはヘルステックは全く認知されていません。医療やIT業界ですら全く認識されてないといっていい現状です。

 

 「ヘルステック」は、21世紀の以後100年にわたる大改革のうねりです。その流れに遅れることは、関係企業や医療施設の「廃業」を意味します。そこで、最低でも知っておかなくてはならないヘルステックに関する知識と現状を共有しておかなければなりません。

 

 今日は、現在医療上でのIoTが、いかにして実際のビジネスに適応できるのかという「現在のヘルステックの常識」について書かれた記事の抜粋をご紹介します。

 

 記事は「ヘルステック百花繚乱」というサイトからのもので、このサイトでは、現在、非常に情報が乏しいヘルステックに関する最新情報を頻繁に更新しています。この素晴らしい先進的なサイトの試みを宣伝させていただくことも兼ねて、ヘルステック情報共有に質させていただきたく思っています。

 

 

 

 

 

 

「ヘルステック」は医療業界に風穴を開けるか

 

 

 

「ヘルステック百花繚乱」というサイトの配信記事

2016年4月30日

https://newspicks.com/news/1533893

 

 

 

誰も「変えよう」と思わない業界

 

 

 「競争がなく、“変えよう”というインセンティブが働きませんから、他の領域よりもテクノロジーが入りにくい」

 

 元マッキンゼーのコンサルタントで、病院経営のコンサルティングを手がけるメディヴァの大石佳能子代表は、医療・ヘルスケア業界をこう評す。

 

 確かに、病院は小さな事業体が散在するため、一気に新技術が浸透しにくい。また、国が定めた診療報酬に沿って経営が成立するため、効率化のモチベーションがわかない。勤務医は医局の、開業医は医師会の顔色を伺わなければならない……。

 

 「人の命」を扱う以上、安全性が何よりも優先されるべきであり、そう簡単に新たな実験をするわけにはいかない側面もある。

 

 

 

 

 

 編集部からのコメントです。

 

 記事は医療業界の不透明性と硬直性に切り込んでいます。国の定めた診療報酬に法的規制、人の命と健康を預かるためにリベラルに行えない実験。これはヘルステックを阻む大きな壁だといえます。

 

 この「壁」によって、どんなに不便で事故の可能性が指摘されていても、「変えよう」という現場の意識が希薄であるといいます。その結果、深刻な事件が起こり、関係者の逮捕に高額の賠償金、事業の廃業、小さくても医療過誤などで多額の賠償金を請求されるなど、患者さまだけではなく、お医者様や医療施設は常に危機にさらされています。実際に今世紀につぶれた医院の数は膨大なものになっています。

 

 「お上の顔伺い」と法規制という不合理を何とかしなければ、日本の医療自体は再びガラパゴスの数十年を経て、外国からの「ビッグバン」によってこじ開けられ、90年代末に日本中の金融業界を襲ったカタストロフィが起こるでしょう。関係者が大量に失業し、命を落とすことにもなりかねません。医療業界が少しでも早く意識を高めて知識を共有し、共闘関係を作って、業界と医療施設、政治家を動かすことが望まれています。

 

 医療業界は「小さな事業体」の集まりであるというのが、大きなネックです。ヘルステック普及の基本は「シェア」という思想です。医療施設は大規模な医院や系列、町医者と雑多な有り様を示していて、互いの連絡は大学の系列医師会のような「上」のレベルでしか図られていません。現場が互いに何をやっているのか、全く見当もつかない。

 

 医療施設からの情報共有の申し出は、ヘルステック普及の突破口として限りなく貴重なものです。

 

 

 

 

 

(記事の続き)

 

 

 しかしここに来て、医療・ヘルスケア分野の閉塞感が、テクノロジーの力で緩和されつつある。シリコンバレーでは、「フィンテック(金融+テクノロジー)」「エドテック(教育+テクノロジー)」と共に、「ヘルステック(ヘルスケア+テクノロジー)」が「3大投資領域」と言われる

 

遠隔診療2015年8月の厚生労働省通達によれば、これまで離島やへき地に限定されていた遠隔診療の範囲が、事実上どこでも可能になった。通院のハードルを下げることで、服薬を忘れて症状が重篤化する患者を減らしたいとの意図だ。

 

予防市場安倍政権下の「日本再興戦略」においては、「国民の『健康寿命』の延伸」がテーマの一つとして挙げられ、医療機関と民間企業が連携してサービスを構築し、健康増進・予防を担う市場の創出をめざしている。

 

かかりつけ医平成28(2016)年度の診療報酬改定で、認知症や小児の主治医機能が評価されるようになった。それと同時に、紹介状なく大病院を受診した場合、定額の負担が発生する。これにより、地域の大病院と中小病院、クリニック間の相互送客が進むと見込まれる。そして、それをスムーズに行うため、電子カルテなど患者情報を共有するツールの普及が予測できる。

 

 

 

 

 

 編集部からのコメントです。

 

 ここに「エドテック」というのがありますが、エデュケーション・テクノロジーの略で、フィンテックの教育適用バージョンです。スマホ塾という新しいサービスがすでに始まっています。この試みは、従来の予備校や塾の無駄な指導やコストを骨抜きにして、業界を再編するだけでなく、公立中高を実質的になきものとするでしょう。

 

 そしてそのあとからの内容が具体的です。「遠隔診療」「予防市場」「かかりつけ医」の三つが、ヘルステックの今考えられるサービス領域だといわれています。

 

 遠隔治療に関しては、2015年8月の厚生労働省通達で「患者側の要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、直接の 対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、遠隔診療によっても差し支えないこととされており、直接の対面診療を行った上で、遠隔診療を行わなければならないものではない」ということになっています。

 

 つまり、遠隔治療のみでは許可されないが、対面治療と一緒にやるのであれば、これまで島しょ部に限定されていた遠隔治療は「患者側の利点を十分に勘案した上で」OKになりました。これでIoT系のデバイスが健診のみならず、治療にも用いられることが可能になったということです。

 

(事務連絡 平成27年8月10日 「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」)

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000094452.pdf

 

 「予防市場」と「かかりつけ医」に関しては、これはフィンテックのアンバンドリングやP2P市場の確立の可能性を医療分野で実現できることを示唆しているように思えます。

 

 民間企業が医療機関同士や患者、機器や施設のマッチングを行い、それまで医療機関にしかできなかったことが、事実上医療機関の手を離れて、民間の情報通信技術によってスムーズ行われていくことが予想されます。それが「地域の大病院と中小病院、クリニック間の相互送客」を推進するでしょう。

 

 「電子カルテなど患者情報を共有するツールの普及」というのは、ただ紙媒体を電子ファイルにするというものではなく、これはフィンテックにおける「与信能力」を銀行から事実上外していったことと同等の意味を持つでしょう。

 

 患者の病歴や通院履歴を解析して、ベッド数や機材、予約状況や専門医の状況とマッチングさせることが、IT業界の技術で可能になります。つまり、医療機関や医療従事者から、余計で無意味な業務を取り除き、ディープ・ラーニングとIoT技術で、患者に必要な医療環境をより精密でスムーズ、適切に行えることになります。医療従事者の側からも、より患者の医療行為に集中でき、細かな医療ミスをなくすことが期待できます。

 

 

 

 

 

(記事の続き)

 

 

予防医学研究者の石川善樹氏は、ヘルステックの分野を大きく「治療」「予防」「検査」の3つに大別

 

 

1「治療」―今年4月に保険適用範囲が拡大された「手術支援ロボット」や、今年度中に自治医大(栃木・下野)で実証実験が始まる「人工知能診断」についても、今後の医療の形を占う上で避けては通れない。

 

2「予防」―さまざまな生体データを「見える化」することで生活習慣の改善を促し、病気の発症を未然に防ぐ「ウェアラブルデバイス」が代表例。また昨年12月から企業のストレスチェックが義務化された。従業員のメンタルの状態を把握し、鬱による休職や退職、その他の病気にかかるリスクを減らすのが狙いだが、そのためのストレスチェックも予防医療の一種と言える

 

3「検査」遺伝子検査ビジネスの動きが目立つ。2014年ごろからヤフーやDeNAをはじめとするIT企業がDTC(Direct-to-Consumer)遺伝子検査に参入。業界団体の「個人遺伝情報取扱協議会」を結成し、今年夏には独自の基準にのっとった認定企業を公表する構えを見せている。

また遺伝子検査以外にも、自宅で血液検査が行えるキットを販売するDEMECAL(デメカル)や、「ワンコイン健診」を提供するケアプロなどが注目を集めている。

 

 

 

 

 

 編集部からのコメントです。

 

 

 まず自治医大で始まる人工知能診断実証実験です。どのような実験かわかりませんが、人工知能、AI(artificial intelligence アーティフィシャル・インテリジェンス)は現在「ディープ・ラーニング」というAI第三次革命が起こっていて、画像認証技術を基本とする高度な認証技術が確立されつつあります。手ぶらで入れるコンビニ Amazon Go や自動運転車はその技術が生かされています。

 

 ディープラーニングでは、画像認識の技術が圧倒的に進歩しているので、レントゲンやその他の検査・治療対象画像の解析を行うことは、実用化としては最も最初に行われるフィールドになります。

 

 また、心電図の波形などを読むという、医師にとって意外に大変な作業も、画像認証技術によって、より精密に早く容易になります。さらに、患者や巡回健診から送信されてきたデータや数値、グラフなどの解析は画像認証よりもいっそう単純な技術です。

 

 二つ目の「予防」ですが、これは以前の記事でも登場したウェアラブル・デバイスが活躍するフィールドで、ヘルステックの最も具体的で最初に行われる導入例となります。iPhoneウォッチのような「身につけられるスマホ」によって、患者自身が心拍数から体脂肪などを測ります。

 

  そして三つ目の検査ですが、遺伝子検査キットがすでに販売されており、個人で簡単に自分の遺伝子の検査が可能となっているようです。血液検査キットはもとより、こうした個人で行える検査は、AI=ディープラーニングやIoTを活用したヘルステック導入の端緒となります。

 

 遺伝子検査キットに関するホームページのURLを掲載しておきます。

 

「初めての遺伝子検査」

https://first-genetic-testing.com/

「日本人類遺伝学会」―DTC遺伝学的検査に関する見解

http://jshg.jp/dtc/

MYCODEという遺伝子検査キットの会社

https://mycode.jp/

 

 

 

 

 

(記事の続き)

 

 

新たなテクノロジーが普及するときの宿命だが、そこには規制や既存勢力の壁が存在

 

 

遠隔診療―解釈が定まっていないグレーゾーンが多かったが、今年3月、対面診療を一切行わないことを前提とすれば医師法違反だとする厚労省の考えが示された。これによって「多くの企業が、コンセプト変更を余儀なくされる」(エムキューブ・新井浩二社長)状況に陥っている。

 

遺伝子検査ビジネス―医学界からの反発は強い。例外なく、営利企業の参入は全面的に禁止すべき(中川俊夫・医師会副会長)との声が国の規制論議に影響を与えている。そのため、企業側も議論の進め方に細心の注意を払う。DeNAライフサイエンスの大井潤社長は、「遺伝子検査ビジネスはベンチャー企業的な“なんでもやろう”という意識では困る。ヤンチャな企業が出てこないよう、業界基準をしっかりと定めていきたい」と語る。

 

ウェアラブル・デバイス―石川善樹氏は、ウェアラブルデバイスは単なるファッションだ。アメリカでは『健康に気を使っている』というイメージが社会的ステータスに影響するから、皆、デバイスを身につけているにすぎないと一刀両断する。また、ウェアラブルデバイスに限らず、取得できるデータが増えること自体が、医師にとってのリスクにつながるとの指摘もある。産業医の大室正志氏は「データで何らかの情報を得た場合、医師として、それらにいちいち対処しなければ、医療過誤となってしまうリスクがある。

 

 

 

 

 

 編集部からのコメント。

 

 一見もっともらしい批判ですが、まともな理由や合理性を感じることはできません。日本にかつてからあった、もっともらしい規制の言い訳のような印象を受けます。

 

対面診療を一切行わないことを前提とすればというのは、「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について」に書かれていることに沿っているので、これは遠隔治療には必ず対面治療を伴うようにすればいいだけです。島しょ部などを除くわけですから難しいことではありません。

 

 「ヤンチャな企業が出てこないよう」とか「ウェアラブル・デバイスは単なるファッションだ」に至っては、大人の言い分とは思えません。医療施設も経営と営業があって初めて成り立つのですから、営利企業との協働を無視しては、今後の医療水準の維持は難しいといわざるを得ません。

 

 いずれにしろ、今後さまざまな問題が噴出することは予想されますが、IT技術の進歩は、これまでの記事を見てもお分かりになるかと思いますが、実用化を待ってはくれないレベルにまで達しています。かんたんな検査から、遺伝子検査までがキットで行えるという事実がある現在、IoTやディープラーニング技術がこれに適応しないわけがありません。しなければなりません。

 

 これは、医療関係者やIT企業の社会的責務でもあり、新たなビジネス領域であり、何よりも今後100年にわたる21世紀の新たなインフラとサービスを構築していく試みです。一刻も早く手を打って、関連の医療施設や企業、マスメディアに至るまで、人間のネットワークを作ることが急務です。

 

 日本の業界や医療関係各所がこういった技術革新とサービス変更に眉をひそめていても、いつか例によって「外国から大きな医療のIT革命の波」が押し寄せるでしょう。かつての牛肉の輸入自由化、金融ビッグバンなどと同じように。